職人という生き方

高校生になったころ、どうやって生計を立てていくか、ということを考えるようになり、

 

「物を作って、それが売れたら楽しいだろうなぁ」

 

なんて思っていました。それなら、製造業かというと今の製造業はなんだか違うような気がしました。ベルトコンベアーの前に座らされて、ひたすら流れてくる基板に部品を付けていくアルバイトをしたことがあるのですが、【作る喜び】なんて全くありませんでした。

 

物作りって楽しいことだと思うのですが、それは一人で完成品を作ってこそじゃないでしょうか。でも、大量生産、大量消費の時代にそんな仕事はありませんよね。伝統工芸の職人さんになることも考えたのですが、周りの人達から食えないからやめろと言われ、公務員になってしまいました。

 

うつ病で20年勤めた役所を辞めて一年経ったころ、そんな若い頃の夢を思い出し、ネットで探したバイオリンの製作教室へ通うことにしました。その工房には40代の親方と20代の弟子2人がいたのですが、こんな世界もあるのかとカルチャーショックを受けました。


2人の弟子が親方に仕事を教わる姿は真剣で、何を言われても素直に返事をするんです。大事なことはその場でノートにいちいち書き留めているし。役所じゃ、そんなことはありませんでした。部下に何か頼むたび、

 

「そんな仕事をするために公務員になったんじゃありません!」
 とか
「どうして私がやらなければならないんですか?」

 

と毎度のように言われるので、忙しい私は部下なんてほったらかしにして、なんでも自分でやっていました。

 

私の働いていた役所は大きな役所だったので、転勤すると仕事がガラッと変わりました。転勤はイメージ的には【転職】でした。ですから、年齢に関係なく赴任一年目は誰でも新人です。その結果、いくつになっても若者に技術を伝えるなんてことはありません。ですから、バイオリン工房に通い、親方と弟子の関係を見て、

 

「歳をとって、若い人に伝えることがあるのは素敵だなぁ」

 

と憧れました。役所のことを何も知らない人にこの話しをすると、

 

「熟練した人が育たない職場なんてもったいない」

 

と言われますが、私なりの考えではこれも不祥事の防止策だと思います。長い間、人の入れ替えがない世界で役人が業界の人達と付き合っていると馴れ合いが起こります。だから、役所では3~4年で転勤することになったのだと私は考えています。

 

バイオリン工房のお弟子さんが、一人前の職人として作った物が売れるようになるまでは大変なのでしょうが、これだけ変化の激しい社会で若いころに身につけた技術で一生食べていけるのなら、素敵な職業だなと思います。