朱川湊人、集英社
☆☆☆
絵描きになるため家を飛び出した主人公と友人の雪華がこの世ならぬ者たちと不思議な巡り合わせをする物語です。いわゆる幽霊というものがお話の中に登場するのですが、けっして恐ろしいものではなく、初めてソレを目にした主人公が驚いて、雪華に
「幽霊と一緒に住んでいて君は平気なのか?」
と質問すると、
「別に・・・何の悪さをするわけでもなく、ただいるだけですからねぇ」
なんて呑気に答える。そんなお話しです。
登場する幽霊たちはいずれもこの世に強い未練をもっていて成仏できずにいる者たちです。そういった者たちと巡りあっていくなかで、主人公が
「それにしても・・・人間にとって執着するものがあるというのは、幸せなことなのか不幸なことなのか、僕にはわからなくなってきたよ」
と呟く箇所が心に残りました。
私は熱中できることが何もなく、恋愛でも、金儲けでも、趣味でも、没頭できる人たちを羨ましく思うのですが、もし、それが願いを叶えることがとても困難であるなら、それは苦しいことなのかもしれないとこの本を読んで思いました。