市川拓司、幻冬舎
☆☆☆
テレビの脚本を書いている方が
「携帯電話が普及したせいで、男女のすれ違いがなくなって、恋愛小説を書くのが難しくなった」
とグチをこぼしているのを読んだことがあります。
この本には3つの短編が納められています。
中学や高校を舞台に3組の男女がお互いに好意を寄せ合っているのに思いを相手に伝えることができず、卒業、転校、退学を迎えて離ればなれになってしまうお話です。つまり、すれ違いがテーマになっています。
それで、初版はいつか見てみると2012年でした。中学は分かりませんが、高校生は9割の生徒がスマートフォンを持っているのが現状ではないでしょうか?そんな現実を無視して、このお話の中では携帯電話は登場しません。『好きな異性に会えないときに、相手のことを思って胸を焦がす』なんて物語を成立させるためには、『お手軽にコミニケーションが取れてしまう携帯電話』は邪魔なのかもしれません。
3つのお話はどれも、若い男女が日の光の下を手を繋いで歩く、といったお話ではありません。二人の間には障害があって、それでも静かに相手を思いやり、相手に何も望まず、そして今どきの恋人同士がするようなことは何も起こらず別れを迎えてしまいます。
せつない恋愛小説を読みたい人にお勧めです。悲しくなって、泣いちゃう人もいると思います。