村上しいこ、講談社
☆☆☆
題名から、てっきり合唱部を題材にした物語だと思っていましたが、【うた】とは短歌のことでした。
小学校のときから、中学3年まで親友だった桃子と綾美。中学3年生のときに綾美はイジメにあって傷つき、助けてあげられなかった桃子は後悔しています。
同じ高校に進学した二人ですが、綾美はスグに不登校になり、心配した桃子は学校の帰りに綾美の家を訪ねるようになります。
そんなある日、桃子は登校中に上級生から強引な勧誘(脅迫?拉致?)にあって、短歌を作る部活動【うた部】に入れられてしまいます。
綾美のために力になってあげたいのに、何もできない自分を責め、いっそ綾美から逃げ出したいとまで思い詰めていた桃子が、うた部の先輩や短歌の魅力に触れるにつれ、前向きな気持ちを取り戻し、そして、その気持ちが綾美にも良い方向へ作用していきます。
読んでいて、
『そうなんだよな、人間って面倒くさいんだけど、心の傷を癒してくれるのも人間なんだよなぁ。』
と思いました。
それと、すっかり学校で勉強したことを忘れてしまっていたのですが、短歌って、57577の文字数さえ守っていれば、あとは自由に創作してイイんですね。もっと、細かな規則があるものだと勘違いしていました。
作中では、桃子、綾美、うた部の先輩たちが短歌を作って、仲間で批評し合うのですが、共感できるうたが沢山出てきます。それらを鑑賞するのも楽しい一冊です。そんな中の一首、綾美が学校に行くことができず、引き籠っている部屋で詠んだうたが、約二百社から不採用通知を受け取った私の心に共感したので、引用しておきます。
《この世にはわたしの居場所などなくて見る人がみな敵に見える日》