島本理生、集英社
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本の題名から内容を想像できた方は、読書家ですね。宮沢賢治の【よだかの星】から着想を得て書かれた恋愛小説です。
顔に大きな痣がある前田アイコは、子供の頃にそのことで意地悪をされて悲しい思いを何度もしました。そんな経験から、アイコは目立たないようにひっそりと生きて行こうと思うようになります。
高校でも、痣のある顔のことで心無いことを言われるアイコでしたが、負けるもんかと雑念を追い払うように勉強に打ち込んだおかげで、国立大学の理学部物理学科に合格します。
大学院の修士課程に進んだアイコに、出版社に就職した友達から、顔に痣や怪我のある人たちのルポルタージュを作るから出演しないかと誘いがきます。軽薄な企画ではないことを確かめたアイコはこれに出演し、出版された本は話題作となって映画化が決まります。これが縁となって、映画監督の飛坂逢太と出会い、二人はだんだんと引かれ合っていくのですが・・・
女性が人生で一番美しい時代を顔にある大きな痣のせいで、普通の娘たちとは違った生き方をしなければならないアイコですが、そのことで必要以上に卑屈にならず、今の自分に何ができるのかを考え、実行している姿がカッコイイのです。作品中では、そのことを心無い人たちが、「野武士のようだ」と形容するのですが、アイコはそんな言葉に負けません。
男性からチヤホヤされたことがないアイコなので、男性から好意を寄せられて素直に喜びますが、決して恋に溺れないところもカッコイイ!
魅力的な脇役たちが登場することもお勧めポイントです。私は、アイコが悩んでいるときに短い言葉で進むべき道を指し示してくれる研究室の教授が好きになりました。
全体を通して落ち着いた文体で読みやすく、ありえないような過剰なイベントがないおかげで、「私ならどうするか?」とアイコと一緒に考えながら読むことができました。
沢山の人に読んでもらいたい大人の恋愛小説です。