山下清、ちくま文庫
☆☆☆
山下清さんがヨーロッパを旅行されたさいに書かれた旅行記です。読み終わって、
「山下清に興味が無い人にはつらい本だな」
と思いました。
山下清さんは知的障害者です。そのことを知らずに読み始めれば、
「なんだコレ?」
となってしまいます。
小学校低学年の子供が書いたような文章なので、愛情を持って辛抱強く読み進めなければなりません。当然、ヨーロッパに関するウンチクなどは皆無で、山下さんが見て思ったことを書いてあるだけです。
ただ、それゆえに視線は純粋で、日本の金持ちにありがちなヨーロッパのものならば何でも有り難がってしまうようなところは全くなく、日本の良いところ、ヨーロッパの良いところを素直な感想として書いています。
ご自身のことを《頭の弱い人》と認識されていて、そのことで身に着けた処世術のようなものは面白いと思いました。一例をあげると、山下さんはお金を持たずに放浪する癖があり、そのため旅先で物乞いをしなければならないのですが、どんな町が物乞いするのに適しているか次のように書いています。
【人がゆっくりと歩いている町の人は親切な人が多く、放浪のときも、もらいが多かった。】
こういうことは書いたらまずいんだろなぁ、なんて一般人の常識はないので以下に紹介するような「プッ」と笑ってしまうようなこともサラッと書いてしまいます。旅行中に偶然目にした結婚披露宴について書いた部分です。
【いったい西洋ではいくつまでが女らしい女で、いくつから上がただの年寄りになってしまうのだろう。花嫁はきっと二十いくつで、女らしくなければ嫁になれないので、西洋では二十代は女らしい女の年ごろで、三十代はまだ女らしさが残っていて、四十代になると太りだす。五十から六十になると髭が生えたりして、女でも男でもないただの年よりで、ぼくが思うには、西洋の女の人の方が日本の女の人に比べて、早く女らしくなくなるのです。】
こんな感じで、読んで勉強になることは一切書いてありません。だから、山下清さんがヨーロッパを見て感じたことに興味がある人だけが読んで下さい。
最後に、山下清さんが49歳で亡くなったと分かり、あれだけ沢山の作品を残された方が若くして亡くなられていたことに驚きました。