夏美のホタル

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森沢明夫、角川書店
☆☆☆
恋人同士の若い男女二人が、バイクのツーリング中にトイレを借りるため立ち寄った雑貨屋の主人と交流を深めていくお話です。

 

雑貨屋《たけ屋》は街からは遠く離れた寂しい集落にあります。たけ屋には小さくて可愛らしいお婆さん(ヤスエさん)と、その息子の恵三さんの二人が暮らしています。恵三さんは昔、事故で大怪我をしてしまい、後遺症が残って不自由な生活を送っています。

 

そんなたけ屋に偶然立ち寄った慎吾と夏美ですが、まず、ヤスエさんと恵三さんの人柄に魅了されてしまい、次にたけ屋の周りにある美しい自然に感動して、休日ごとに通うようになるのです。

 

私はうつ病になってから、物語の中でも人が死んだり、殺されたりするのが苦手で、そういった本は避けています。ですが、実はこの本ではヤスエさんと恵三さんは亡くなってしまいます。それでも、私は読後に不快な気分になりませんでした。それどころか、この本は理想の晩年を描いた物語じゃないかと思うようになり、暖かな気持ちで読み終えることができました。

 

私は無職のため、何十日も人と話をしないことが普通にあります。とても寂しいのです。なので、萩本欽一さんが

 

【リタイアした後の幸せは何か考えたとき、「明日、会う人がいる」、だと思うようになった】

 

とおっしゃった言葉は強く記憶に残りました。その明日会う人が、爽やかで元気な若者だったら、老人にとってはなおさら嬉しいことに違いありません。

 

老人と若者の交流と、自然の描写が美しい、素敵な小説です。