かんかん橋の向こう側

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あさのあつこ角川書店
☆☆☆
山間の小さな温泉町、津雲で暮らす普通の人たちの日常を描いた物語です。【津雲】でネット検索してみたのですが、ヒットする地名はありませんでした。しかし、登場人物たちが話す方言や会話の内容から、中国地方の人口減少が問題になっている田舎町だと想像できます。

 

四章からなっていて、第一章と第四章の主人公が真子という名の高校三年生、第二章の主人公は60代の男性、第三章の主人公は30前後の男性となっています。

 

真子の実家でもある【ののや】という料理屋が、津雲で暮らす人々の大事な社交の場になっています。ここを起点にして出会い、交わり、別れ、が描かれていきます。

 

四つの章に共通していることは、田舎の人たちの都会への複雑な気持ちを扱っている点です。登場人物たちは津雲での生活を楽しんでいます。しかし、都会への憧れも同時に持っていて、そこへ向けて旅立っていったり、傷ついて帰ってきたりするのです。

 

この物語の中では、津雲を《いつでも温かく迎え入れてくれる土地》として描いているので、東京生まれ、東京育ちで、【ふるさと】と呼べるような土地がない私は単純に、

 

『帰れる場所がある人っていいな』

 

と羨ましくも思うのですが、室生犀星のように、

 

《ふるさとは遠くにありて思うもの》

 

と考えるようになる人も大勢いるので、田舎には田舎の現実があるんだろうな、とも思います。人間関係がウエットな田舎と、ドライな都会、どちらが良いのかは人によって好みがわかれるところなんでしょうね。

 

ふるさとがある人には共感を、私のように都会でしか暮らしたことがない人には疑似体験する機会を与えてくれる本です。