安全靴とワルツ

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森深絵、角川春樹事務所
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自動車を生産し、世界中に向けて販売している自動車メーカーがお話の舞台です。

 

主人公は、坂本敦子(30)、独身。敦子は物作りが好きでメーカーに就職し、机に向かっているよりは、作業着に安全靴で現場仕事をしているのが似合う女です。

 

そんな敦子に周囲も意外に思う辞令がでます。本社への異動です。それまで、工場でお世辞にもお上品とは言えない職工たちを相手にしてきた敦子が、スーツを着て、ヒールのついた靴でなければ建物の中を歩くことも許されない本社勤務を始めます。

 

世界企業の本社では、スタッフに沢山の外国人がいて、英語が話せるのは当たり前、国際電話もバンバンかかってきて、環境の激変に最初は戸惑う敦子ですが、工場で身に着けた度胸で問題をやっつけていきます。

 

そんな仕事ぶりが評価され、責任が重くなり、同僚の男性から求愛され、仕事に恋愛に次から次へと決断を迫られるようになります。

 

私は巨大官庁で働いた経験があるのですが、出先機関で働いていた人に本省(=霞ヶ関)勤務の辞令が出ることを【赤紙が届く】なんて言ってました。この本の中でも、工場で働いていた人が本社勤務になることを【赤紙が届く】と言っていたので、組織が大きくなるとどこも似てくるな、と思いました。

 

また、敦子が本社で任された工程管理の仕事は私も経験があるので、苦労を共感することができました。なにも知らなかった頃の私は、大きなプロジェクトというものは有能な人(または企業)が引っ張っていくものだと思っていたのですが、実際に工程管理責任者になってみると、沢山の人や会社が集まって一つの目標に向かって仕事を始めると、一番無能な人に引きずられながら進捗していくことを思い知らされました。だから、工程管理の仕事は気苦労が絶えなくて大変なんですけどね。

 

敦子の仕事は大変なんですが、物語に悲壮感はありません。それは、敦子の同僚がみな有能な人ばかりで、愛社精神にあふれているからです。スタッフ全員で少しでも良い製品を安い値段で消費者に届けるという目標を共有しているので、ぶつかることはあっても最後はちゃんと落としどころにおさまるのです。

 

30女が、仕事に恋に全力でがんばる爽快感ある物語です。