小川洋子、講談社
☆☆☆
世界で一番小さなアーケードが舞台になった小説です。
お店が軒を連ねているのだけど、
「こんな物、誰が買うんだろう?」
というものしか陳列されていないので、賑やかな商店街ではありません。
それでも、長い間待ち続けると、ここの商品を必要とする人が現れ、買って帰るのです。
時代から取り残された商店街に引き寄せられてくるお客さんは、決まって時代に取り残された人たちで、年齢に関わりなく、
【余生】
という言葉がピッタリ似合う人ばかりです。
1話、30分くらいで読める短編が10話納められています。激しい感情をあらわすキャラクターは一人も登場せず、世の中の流行に背を向けた人々の静かな生活が描かれています。
たとえば江戸時代なら、子供の頃に修行で身に着けた技術で一生ご飯を食べることができました。しかし、産業革命がはじまったあたりから、破壊的イノベーションがそれまでの生き方を陳腐なものにしてしまうことがおこるようになりました。
時代が進むにつれて、破壊的イノベーションの生まれる間隔が縮まっているように思われます。ですから、誰もが近い将来、時代に取り残された人になる可能性があるわけです。そのときには、このアーケードを訪れるお客さんたちのように、あわてず騒がず、生活を粛々と続ける姿が参考になるはずです。