知念実希人、光文社
☆☆☆
この小説は特殊な環境下で話がすすんでいくので、まずは舞台設定から書くことにします。
一年前、権威ある天文学者が、
「直径四百キロメートルの天体が日本時間の2023年10月20日午前10時13分に地球に衝突します。落下地点はハワイの近くです。」
とテレビで発表します。この天体は発見者により【ダイス】と名付けられます。
世界中の政府がこれを否定するコメントを出すのですが、多くの国で民衆が暴徒化し、無政府状態になってしまいます。
そんな中、日本は治安が保たれていたのですが、主人公の男子高校生の実質上唯一の家族である姉が、全裸で胸にナイフが突き刺さった状態で発見されます。天体落下まで残り12日です。主人公は、人類滅亡よりも先に自分で犯人を殺さなければ気が収まらないと怒り狂い、拳銃を手に入れて犯人捜しを始めるのです。
人類滅亡のときをカルト集団などではなく、信用のおける学者が遠い未来ではなく、
「一年後にみんな死にます」
と日時を指定した世界に興味を持って読み始めたのですが、割と普通のサスペンス小説でした。
なぜなら、主人公の頭は復讐で一杯で、天体落下を考える余裕がないからです。強いて言えば、天体が復讐できる時間を12日と区切っているので、主人公が常に時間を気にして行動していることだけです。
まぁ、直径四百キロメートルの天体が落ちてきたら、人類にできることなんてないですけどね。少し面白いと思ったのは、こんな状況下でも貨幣経済が機能していて、主人公はお金を払って拳銃を買ったことかな。
男子高校生が独力で、最愛の姉を殺した犯人を追い詰めていく小説として読めば問題ありません。容疑者が次々にあらわれて、主人公を迷わせ、最後に思いもよらない人物が仕掛けた罠であったことが分かります。たぶん、多くの読者は最後まで読まないと犯人は分からないと思います。
12日後に人類が滅亡するとしたら、あなたは何をしますか?