うつ病、無職の雑記帳

孤独です。しあわせになりたい。

横浜駅SF

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柞刈湯葉カドカワBooks
☆☆☆
数年ぶりにSFを読みました。

 

日常生活をあつかった小説だと、ときに主人公に共感して悲しくなったり、暗くなったりしちゃうのですが、SFだと現在の世界と別の世界の話なので、そういった共感が少なくなり、単純に娯楽作品として読むことができて、気楽で良いですね。

 

さて、この物語は現在から数百年後の日本列島を舞台にしています。それまでの間に人類は世界大戦を経験しました。しかし、その戦争では大量破壊兵器は使用されませんでした。そのため、戦闘は長期間に渡って行われ、その中で開発された自己修復能力を備えた人工知能兵器の暴走により人間の意志とは無関係に戦争は終結したようです。

 

その後、人工知能の自己修復能力は勝手に街を形成することに使われ、日本の本州は人工知能が築いた建造物で覆いつくされました。その中心が現在の横浜駅であったため、この建造物をこの時代の人々は【横浜駅】と呼んでいます。

 

横浜駅の中は人工知能によって管理され、治安が維持されています。人には背番号が付けられます。背番号登録していない人や駅が作った法律を守らない人はパトロールロボットによって駅の外に捨てられます。6歳までは背番号がなくても平気なのですが、6歳になると57万ミリエンを払って背番号登録しなければなりません。ちなみに、この世界では大衆食堂のカレーライスが400ミリエンです。まれに、この登録料を払えない人がいるのですが、そういった人は6歳の誕生日と同時にパトロールロボットによって駅の外に捨てられます。

 

生産活動に適した土地は横浜駅がすべて建物の中に取り込んだため、駅の外に捨てられた人はたいてい飢え死にすることになります。

 

こんな世界が二百年くらい続いたのですが、駅に捨てられた人の中にしぶとく生き延びて子孫まで残す者が現れました。その子孫の一人が主人公です。頑丈な体を持つ青年で、生まれてから一度も入ったことがない横浜駅に興味を抱き、特別なチケットを手に入れて背番号なしで横浜駅の中を旅する機会を得ます。そこでの見聞がこの物語です。

 

現代は人工知能の黎明期です。今現在の技術でもキャッシュレス化を推し進め、個人情報に関する規制緩和が行われれば、人工知能を使った国民の格付けが可能だと私は思っています。その行き着く先の世界が横浜駅なのかなぁ、と思いながら読みました。

 

人工知能によって究極まで最適化された社会で暮らすことは幸せなんでしょうか?この本では人工知能の支配が及ばなかった四国の姿もあわせて書かれているので、そちらの社会と比較しながら考えるのも面白いと思います。