上野誠、講談社
☆☆☆
奈良時代に当時の先進国である唐へ派遣された役人の数奇な運命の物語です。当時、東シナ海を渡ることは非常に危険な航海でした。そのため、遣唐使に選ばれることを高位の役人(貴族)たちは嫌っていました。しかし、下級の役人たちにとっては無事に帰国できれば出世の糸口になるものであり、賄賂を渡してでもなりたい任務でした。
平群広成(へぐりひろなり)も遣唐使になって出世を夢見る役人の一人でした。猟官活動を行い、遣唐使となり、唐の皇帝に謁見し、帰国の途につくも暴風で現在のベトナムへ漂着し、熱帯の風土病に悩まされ、海賊に襲われ、当時の東アジア情勢に翻弄されて中国東北部の王国まで行く羽目になり、やっとのことで帰国します。
読んでいて思ったのは、『待つ時間』の多さです。日本の朝廷内の分かりづらい意志決定プロセスや、船が出航するまでの天候の好転を待つ時間、風と潮流に翻弄される航海、唐へ着いてからもかの地の権力闘争による待機命令、遭難からベトナム脱出までにも好機が訪れるまで延々と待ちます。効率が重んじられる現代では考えられないほど、様々なことでただひたすらに待つのです。そのため、努力が及ばないことを無為にじっと待つことの辛さが随所に書かれています。現代人が同じ目にあったら、きっと耐えられないと思いました。なので、文中に出てきた、
「世の中、人事の及ばないことばかりですよ」
とのつぶやきが印象に残りました。
巻末に帰国してからの平群広成のその後が短く書かれています。彼の人生は幸せなものとなったのでしょうか?気になる方は是非、読んでみて下さい。