原田マハ、集英社
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主人公の丘えりかは10代でアイドルを目指して芸能界デビューするも鳴かず飛ばずの日々を送り、現在は32歳のタレントです。唯一、細々と続けていた毎週土曜日午前9時半から9時55分までの旅番組が打ち切りになり、仕事が何もなくなってしまいました。
所属する芸能事務所に力があれば、新しい仕事を獲得することができるのかもしれませんが、丘の所属する事務所は丘を含めても従業員3人の弱小事務所。丘をスカウトした名物社長とテレビ局を営業して回っても、
「機会があればご一緒にお仕事したいですね」
と愛想良く断られ、厳しい現実を突きつけられます。社長から、
「お前、脱ぐ気あるか?」
とまで追いつめられたとき、出会いが訪れます。丘の旅番組を見て、ファンになったお金持ちから、難病に侵された娘に代わって旅行をして欲しいという依頼が舞い込んだのです。旅行代行業、《旅屋》の誕生です。
泣いたり、笑ったり、がっかりしたりする丘の普通のリアクションに親近感が持てますし、口は悪いが人情に厚い事務所の社長など、脇役にも魅力的なキャラがたくさん登場していて、じんわりと感動させるお話になっています。