名取佐和子、幻冬舎文庫
☆☆☆
とある鉄道会社の遺失物保管所、通称《なくしもの係》でおこる奇妙な縁について書かれた物語です。
なくしもの係には髪の毛を赤く染めた若い男性職員1人と、何故かペンギンが1羽います。ここを訪れた人は誰もがこの不思議なコンビに驚きます。
本の題名から私は、この不思議なコンビが落とし物をした人たちに積極的に関わって、何かしらの事件を解決に導くものと想像していましたが、そうではありませんでした。
4話の短編が納められていて、それぞれに主人公がいて、落とした物を探しに訪れるのですが、主人公たちは不思議な縁に導かれて、実際になくした物ではなく、心に眠る忘れかけていた大事な気持ちに気付かされるのです。
そして、ラストでは新たな出発に向けて、そっと背中を押してもらえます。そんな場所が《なくしもの係》です。
この物語は次々とイベントが発生したり、魅力的なキャラクターがどんどん登場する物語ではないので、退屈に感じる人もいるかもしれません。じんわりと、心を温めるお話が読みたい人にお勧めな物語です。