清水マリコ、小学館
☆☆☆
人は誰でも辛い現実を少しの間忘れるために、趣味に没頭したり、お酒を飲んだりします。この物語の主人公である蓮見京子(26)は、それらの代わりに妄想することで気を紛らわしています。
自分のことを後回しに考えるクセのある京子は仕事や恋愛で、毎日少しずつ我慢を強いらて、ストレスが溜まっています。そんな日常で、京子は一人きりになると妄想するのです。
妄想の中で京子は管理された未来社会に潜入したスパイであり、周りの人たちは京子を監視し、危険と判断すれば襲ってくる敵です。
最初は現実と妄想を使い分け、精神の均衡を保っている京子ですが、少しずつ二つの世界の境界が曖昧になって、現実の生活に支障が出るようになってきます。この辺り、本を読んでいてもどこから妄想で、どこから現実か分かりずらくなっていて、京子が見ている世界をうまく表現しているなと思いました。
狂気に取りつかれ、妄想の世界で、ピストルの銃口を自分のこめかみに向けるまでになってしまう京子。はたして、正気を取り戻し、現実の世界に戻ってくることはできるのか、それとも人格が破綻して狂人になってしまうのでしょうか。
日常に潜む狂気を扱った物語です。