群ようこ、角川春樹事務所
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雑誌編集者のアキコ(53)の母親は一人で大衆食堂を切り盛りしていました。出している食べ物は盛りが良くて、味の濃い食べ物ばかり。お酒も出していたので、家に居場所のないオジサンたちのたまり場になっていました。
また、アキコの母親もそんな雰囲気が好きで、片手にタバコ、片手にお酒の入ったコップでオジサンたちに混じって閉店後も歓談していたので、母親は元気なのだとばかり思っていたのですが、常連客たちと歓談中に突然倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまいます。
母子家庭ではありましたが、前触れもなく突然亡くなってしまったことと、粗雑な母親とはそりが合わなかったこともあり、アキコは天涯孤独になったことを《心細い》と思うことはあっても、《悲しい》とか《寂しい》と思うことはありませんでした。
お葬式も済ませ、半月たったころ、アキコに辞令が下ります。行き先はこれまでの部署とは縁もゆかりもない部署です。不本意な異動にアキコは我慢ができず、会社を辞めてしまいます。
料理本の編集をやっていたことから、料理の勉強を続けていたアキコなので、母親が残してくれた食堂を引き継ぐことにします。この物語はそんなアキコが会社を辞めて、食堂を開店し、切り盛りしていくお話です。
仕事を辞めて新しいスタートを切ったことで、アキコに出会いや別れが次々に訪れます。登場するどのキャラも『あぁ、こんな人いるよな。』と思える人ばかりで、作者が日頃、人間観察を熱心に行っていることがうかがえます。アキコが自分のルーツを探りにいく場面などもあり、退屈せずに最後まで読むことができました。
世の中には、ほんとに色んな人がいるよなぁ、と思わせる作品です。