井上荒野、角川春樹事務所
☆☆☆
総菜屋《ここ屋》で、縁あって働くことになった60代前半のおばさん3人が、かわるがわる主人公をつとめる短編集です。
60年、生きてくる間、歩んできた道は違ったはずなのですが、ここ屋に集まった3人は皆、独り身です。
夫に好きな女ができて、離婚した江子。
結婚を意識して付き合っていた男に逃げられてから、ずっと独身の麻津子。
結婚はしたものの、一人息子に先立たれ、夫とも死別した郁子。
『人生は思い通りにはいかない。』
ということを身に染みて分かっている3人ですが、良い意味で、
『人生なんて、そんなものサ。』
と潔く受け止め、日常にささやかな楽しみを見つけ、ここ屋で冗談を言い合いながら楽しく働いています。
60を過ぎても、異性への関心を失わず、乙女みたいにドキドキしたり、焼き餅を焼いたりする3人の姿が微笑ましい物語です。