寺地はるな、ポプラ社
☆☆☆
婚約者から突然、一方的に婚約破棄を告げられて、雨の中、傘もささずに泣いていた田中妙(27)に北村菫(すみれ、40代)が声をかけます。
「道端で泣くのはやめなさい。不幸な自分に酔うのはやめなさい。」
そして、ついて来るように命令し、菫は妙を自分の家に招き入れます。泣いていた理由を一通り聞き終えると、菫は妙に自分の店で働くように勧めるのです。
こんな風に奇妙な出会いから始まる二人の関係ですが、菫のお店がまた変わっています。菫は手芸が得意で、自分が作った物をお店で売っているのですが、その中に宝石箱のようなものがあり、それを菫は《棺桶》と呼ぶのです。
繁華街にあるわけでもない菫のお店【ビオレタ】には、めったにお客さんはやって来ません。でも、どこで知ったのか、辛くて忘れてしまいたい思い出を《棺桶》に詰めて埋葬するためにお客さんが訪ねて来るのです。
《棺桶》を買いに来るお客さん、妙の新しい恋人になる千歳、菫と千歳の子供である蓮太郎、それぞれに背負っているものがあるのですが、妙は当初、
『罪を得たのは自業自得なんだから、自分で背負って生きていくべきなんじゃないか。』
と考えますが、菫から
『罪を犯したのだからずっとそれを背負って生きていけ、なんて他人が言うのは傲慢だと思う。』
と言われて少しずつ、他人も、自分のことも許してあげられるようになっていくのです。
規制緩和のせいで、個性的な店主が経営する小さなお店がなくなり、同じような大規模店舗ばかりになってしまいましたが、こんなお客さんだけでなく、従業員にも許しを与えてくれるような店主と会話ができるお店が日本のどこかにあったらイイのにな、と思わせるお話です。映画化されたら面白い作品だと思いました。