小路幸也、ポプラ社
☆☆☆
この物語の主人公、井筒めいがお花屋さん《花の店にらやま》にやって来るところから物語が始まります。めいが17歳で《花の店にらやま》で働き始める理由は学校でイジメにあって学校を辞めてしまったからです。
こういった場合、リアル感あるイジメの描写を詳細に記述する本もありますが、この本ではめいが、
「私は学校でイジメられた。だから、学校を辞めた。」
と簡潔に述べているだけです。このことは、イジメられた経験のある読者が本の中でイジメを追体験して嫌な思いをせずにすみ、めいに親近感や同情だけを感じるという効果をもたらしていると思います。
めいが働くことになった《花の店にらやま》は花咲小路商店街にあります。花咲小路商店街は善人しか住んでいない商店街です。善人しか住んでいなくても不幸は訪れるもので、商店街の人たちは優しくされたり、優しくしてあげたりしながら支え合って暮らしているのです。
題名にある《花乃子さん》ですが、めいが働くことになったお花屋さんの女主人です。《花乃子さん》は人を幸せにするささやかな魔法が使えます。なので、この本はファンタジーの要素も持っています。
イジメにあって逃げ出し、新天地へ飛び込んだめいですが、暗いところはまったくありません。素直で明るく、賢い娘として描かれています。そんなめいの目線で見たことをめいの話し言葉で書いた本なので、私のようなうつ病の人が読んでも暗い気持ちになることはありません。安心して手に取ってください。
私は20年勤めた役所でうつ病になり、職場に居場所がなくなって自己都合退職しました。辞めた直後は、
『別れは新しい出会いのはじまり』
なんて思っていました。その後、就職活動をして2百社以上から不採用通知を受け取り、
『良縁に巡り合うってことは奇跡なんだ』
と思うようになりました。
辛い現実から逃避した人が、新天地で次々に良縁に恵まれて幸せに暮らすお話です。これは、私の夢です。