川上弘美、新潮社
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中野商店は、骨董とか古美術と呼ばれるような高価な品物ではなくて、引っ越しや遺品整理などで出た不用品をまとめていくらかで引き取って、お店やネットで販売することを生業としています。
偶然手に入れた品物を並べて売るだけなので、お店の中は統一性がなく、雑然とした印象です。
店主は50歳前後に見える中野ハルオです。ハルオの商売はどんぶり勘定で、買い取りも値付けもいい加減です。お客さんはあんまり来ないし、ハルオものんきだし、そのせいでお店にはユル~イ空気が充満しています。
こんな、あまり儲かっていなさそうな古道具屋でアルバイトする菅沼ヒトミ(27)を主人公として、お店の日常をヒトミの目線で書いた物語です。
物語の中では特別なことは何も起こらず、平凡な日常が描かれているだけです。主要登場人物は4名いるのですが、特別な才能を持った人は一人もいません。
しかし、その平凡さに私は共感しました。また、今のご時世、個人商店なんて滅多に目にしなくなりましたから、中野商店の日常は実は貴重なものかもしれません。
中野商店は大手チェーンストアのように就業規則なんてありませんから、常識さえ守って働いていれば仕事で怒られることなんてありません。そんなリラックスできるお店で、ゆるやかな絆が築かれていきます。
一緒に働く仲間に対して無関心にならず、かと言ってお節介なことはしない。困ったときには助け合う。中野商店では、そんな当たり前のことが、当たり前に行われています。
この本の魅力を伝えるのは難しいのですが、規則でがんじがらめにされ、人間としてではなく組織を動かす交換可能な部品として働いている皆さんに、理想的な職場の一つの形を提案した物語と思っていただければいいのかな、と思います。
主要登場人物以外にもたくさんのサブキャラが登場しますが、悪人は一人も出てきませんから安心して読むことが出来るのも魅力です。