うつ病、無職の雑記帳

孤独です。しあわせになりたい。

こちら弁天通りラッキーロード商店街

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五十嵐貴久、光文社
☆☆☆
悪質な街金から追われて東京から逃げてきた男が、北関東にあるローカル線の終着駅に降り立ちます。男の年齢は48歳、所持金はありません。

 

一晩の寝床を借りようとお寺を訪ねると、そこは無人のお寺でした。しかし、無人のわりに建物の中は清潔でしたし、何より疲れていたので横になって眠ってしまいます。

 

朝起きて、首を吊って死ぬためにロープを探していると、近隣の住人と思われる老夫婦に見つかってしまいます。どの様に対応すればいいのか迷っていると老夫婦は深くお辞儀をして、「御前様」と敬う態度を示しながら呼びかけてきます。

 

この老人、この街の商店街の組合長をしているのですが、男をすっかり本物の僧侶と信じ切っています。そして、商店街の代表として男にかわったお願いをしてくるのです。それは、シャッター通り商店街になってしまった商店街の店主たちをなるべく早く、苦しまずにあの世へ行かせてやってくれ、というものでした。

 

こうして、借金で首が回らなくなった男と、時代の波に取り残されて生きる希望を失った商店街の人々との交流が始まります。物語はユーモアたっぷりで、声を出して笑ってしまうような箇所がいくつもあります。とんでもない提案ばかりする男の言うことを聞くうちに活力を取り戻していく店主たちの様子に元気をもらえるはずです。

 

物語の終盤、私の心に残るセリフがあったので引用します。

 

・採算度外視の商売を始めた電気屋の店主に、男がこんな商売ではやっていけないだろうと声をかけたときの返事です。
【ですが、もう飽き飽きしていたのです。店を閉めて五年。生きているのか、死んでいるのかわからないような時間を過ごしてまいりました。ただぼんやりしていただけの五年です。御前様にはおわかりにならないかもしれませんが、そんなふうに暮らしていると、自分の人生が無意味に思えてくるのです。】
→私は無職なので、とても共感しました。

 

・薄利多売の商売を始めた喫茶店の店主に、男が忙しいわりに儲からないだろうと声をかけたときの返事です。
【わたくしはこの歳になって初めて、働くということの意味を知りました。人間は、誰もが誰かのために役に立ちたいと思っているのでございます。たとえどれだけ儲かろうとも、他人が喜んでくれなければ意味はありません。お客様が笑顔になるような仕事がしたいのです。】
→私が公務員になったばかりの頃、定年間近の大先輩から、「この仕事は真面目にやっても人から恨みを買う仕事だ」と言われました。それから20年働いて、その通りだと思いました。働いて、お金をもらって、人から感謝されたら最高だと思います。