うつ病、無職の雑記帳

孤独です。しあわせになりたい。

ぽんこつ

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阿川弘之ちくま文庫
☆☆☆
1959年の東京を舞台に、ぽんこつ屋で働く青年、熊田勝利(25)と、大学4年生の三津田和子(22)を主人公にした物語です。

 

ぽんこつ屋》と言われても今は存在しない商売なので、説明が必要かと思います。当時、日本で走る自動車の大半は外国製で、とても高価なものでした。高価な上に希少性もあり、故障したからと言って、すぐに交換の部品が手に入るような時代ではありませんでした。

 

そこで、廃車になった自動車を解体して、使える部品を取り出し、ストックしておいて、求めに応じて正規品よりも安い値段で販売する商売がぽんこつ屋です。この当時、東京墨田区にはぽんこつ屋が約70軒も集まっていました。

 

勝利は戦災孤児です。しかし、幸運なことに親切な親戚に引き取られたのと、物事にこだわらないサッパリした性格のために素直な青年に育ち、周囲の人たちから可愛がられて働いています。

 

和子は眼科医を父に持ち、経済的に何不自由なく育った上流階級のお嬢様です。常識に縛られるのを嫌い、青春を謳歌する活発な女子大生です。

 

生活圏がまるで異なる二人なので、本来なら二人が出会うことなどなかったのですが、思わぬ事故により二人は出会うことになります。そして、山の手のお嬢様と下町の青年との奇妙な交流が始まるのです。

 

きっと、これが書かれた当時は娯楽小説として書かれたものだと思うのですが、私は歴史小説を読むような気持ちで読んでいました。和子の大学生活を通じて、今の学生と同じこと、違うことが比較でき、とても面白いのです。また、勝利はこの当時、芽吹いたばかりの電子工学に関心があり、近未来に実現が予想される夢の技術を和子に語って聞かせるのですが、その多くが今は実現しているのが興味深いです。

 

もちろん、娯楽小説として読んでも面白い作品です。私としては、高度成長期に生きる、どこか楽天的な日本人の姿を高校生や大学生に読んでもらって、今はお爺さん、お婆さんになった人たちの青春時代に触れる機会にして欲しいと思いました。