荒木源、小学館文庫
☆☆☆
買い物の途中、目についたアマチュアオーケストラの公演を聴いて、その完成度に驚いた主人公がさっそく入団手続きをします。しかし、入団したそのオケはよく似た名前の別のオケだったのです。そこから始まる笑いと涙のエンターテイメント小説です。
正装で、すました顔で演奏するオケしか見たことがない人には分かりずらいのですが、たくさんの人が集まって何もないわけがないんです。そんなオケでおこる色々なことが具体的に書かれていて、とても楽しかったです。
私が初めて入団したオケは個人攻撃有のオケでした。練習で下手なことが指揮者にバレると、その都度、指揮者が全体演奏を止めて、懲罰を目的として下手くそに出来ないところを一人で演奏させるのです。その間、下手くそは50人前後の団員から冷たい視線にさらされるのですが、私はこれを何度もさせられて、半年でそのオケを退団しました。
そのため、それと似たことが物語の中で行われて、主人公が追い込まれていく場面では自分のことのように辛い気持ちになってしまいました。オケって、メンタルがタフでないと続けられないのです。
趣味を長く続けるには、
『自分は自分、人は人』
と割り切って、楽しむことが大事だと思うのですが、合奏で他人を意識しないのって難しいと思うんですよね。
しかし、主人公が間違って入団してしまった老人ばかりのオケでは、技術は未熟でも音楽を目っ一杯楽しんでいるのです。そのことが、とても素晴らしいと思いました。
アマチュアオーケストラに興味がある全ての人に推薦する小説です。