喜多喜久、集英社文庫
☆☆☆
恋愛スキルのない修士課程の男子大学院生が、同じ研究室に入ってきた大学4年生の女子に片想いしてしまうお話です。恋に恋して苦しむ男子学生を描いた物語として私は、
を思い出すのですが、《リケコイ。》の方が10倍面白いと思いました。特に、これから理系大学の研究室に入る、あるいは今在籍している、という方で恋愛に憧れているけれど、異性に免疫がないという方は、男も女も絶対に読むべきです。
読み終わったあと、後書きといくつかの書評ブログを覗いてみました。そこでは、主人公の森クンを非難する意見ばかりが目立ち、私は、
「異議あり!」
と森クンを弁護したくなりました。実はこのお話、バッドエンドを迎えてしまうのですが、そこに至った責任は片想いの相手である羽生サンにもあります。過失責任を割合で示すなら、
森クン:羽生サン=7:3
だと私は思います。だいたい、カッコイイ片想いなんて存在しないのですから、森クンばかり非難するのは現実を軽視しています。
ここからは、まったく違うことを書かせていただきます。
物語の中で、実験が予定通りに進まなくて心を病んで不登校になる学生が登場するのですが、私が在籍していた東京理科大学理学部とは対応の仕方が雲泥の差だったので驚きました。
本書は2001年の東京大学農学部を舞台にしています。東京大学では、メンタルの不調により不登校者が出たさい、すぐに教授や助教授が復帰を促すため尽力しているし、指導教官を変えるなどの具体策をとっています。なにより驚いたのが、研究室の学生たちが、不登校者へ復帰するように励ましの手紙(メールではない)を書いていることです。
私が通っていた頃の理科大はというと、【落第大学】なんて呼ばれていて、大学を4年で卒業できる人は半分くらいだったように思います。そのため、落伍者に手を差し伸べる文化が全くありませんでした。研究室の中で心を病んで登校しなくなった学生が出たさい、
「そう言えば最近、あいつ研究室に来てないけどどうしてんだ?」
と誰かが言った記憶はあるのですが、それだけのことでした。教授も何もしなかったと思います。その後、彼がどうなったのか私は知りません。ただ、当時の理科大は卒業研究の単位を取った学生が、期日までに卒業論文を提出しなければ自動的に卒業不可となったので、私と同じ日に卒業できなかったことは確かです。
私が理科大に在籍していたのは約30年前です。昨今は心の病が社会問題として取り上げられる機会も多くなっているので、理科大でも落伍者に手を差し伸べる仕組みを設けたと思うのですが、その点、どうなんでしょう?現役の理科大生に質問してみたいものです。