うつ病、無職の雑記帳

孤独です。しあわせになりたい。

MM

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市川拓司、小学館
☆☆☆
お話の舞台は、地方の企業城下町。町の中心には大きな工場があり、町の住人のほとんどは、工場と直接、あるいは、間接的に経済的な関係をもっています。

 

当たり前だけど、工場の中は階級社会で、大人たちは割り当てられた階級に従って働いています。東京のような大都会ならば、会社の階級は会社の建物を一歩外へ出たら意味をなさなくなるものだけど、この物語の小さな町では、工場内での階級が会社の外でもついてまわります。

 

本来なら、大人たちが仕事を効率的に進めるために作り出した階級は子供たちには関係がないはずなんですが、この町では中学校の中にまで影響を及ぼしています。幹部職員の子供が親の威光をかさにきて、平社員の親を持つ子供をイジメたりする町なのです。

 

そんな町の公立中学校に通う中学三年生の佐々時郎と南川桃を主人公にして、他人の噂話くらいしか娯楽のない陰湿な田舎の日常を切り取っていきます。

 

これは、どこの公立中学でも一緒だと思うのだけれど、同じ年に生まれたというだけの、何の共通性もない子供たちを狭い教室に押し込めれば、子供たちの間に階級が生まれるのは必然です。ただ、この物語の中学が特異なのは、そこに親が工場でどんな役職に就いているかも加味される点です。

 

春から始まった階級闘争が落ち着いた7月、時郎はクラスで下層階級になり、桃は女王として君臨しています。本来なら、交わることない二人の人生が、桃が秘密裏に時郎に依頼した仕事によって動き始めます。

 

桃は時郎に何を打ち明け、時郎はそれにどうこたえるのでしょうか?大人たちが気づかなくなってしまった社会の矛盾に二人が協力して反撃します。途中、中学三年生らしい恋愛を経験しながら、青春小説の王道をいくラストが用意されています。

 

中高生には共感を、大人には青春時代を思い出させてくれる小説です。