原田ひ香、集英社
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賃貸不動産の契約をするとき、大家は前の住人が部屋の中で死んだときには、【事故物件】として、その時の状況を正直に伝える必要があります。しかし、次の住人が一定期間住んで出て行ったあとならば、【事故】について話す義務はなくなり、通常の物件として貸すことができます。この法律の仕組みを利用した商売が【ロンダリング】です。
主人公の内田りさ子(32)は、賃貸不動産で変死した人が出るとそこへ引っ越して、一か月住んで浄化するのが仕事なのです。
りさ子に仕事を依頼する相場という男は現実主義者で、この物語のなかでいくつも名セリフを言うのですが、【ロンダリング】について次のように言います。
『ロンダリングしてくれれば、俺も助かる、大家も助かる、次に入る人間も助かる。事情を知らなければ、ほとんどの人間は気がつきゃしないんだ。俺たちは法は犯してない。東京は狭くて不動産は限られてる。しかも、人がやたら死ぬ。変死した人間がいる部屋がどんどん使えなくなったら、だれも住めなくなっちまう。あんたたちがやっていることは人助けなんだよ。いや、東京助けだな』
仕事は、事故物件に住むだけでお給料までもらえる楽な仕事なのですが、この仕事が長続きしているのは、りさ子の他にもう一人いるだけです。不人気な仕事であることは間違いありません。そんな、不人気な仕事に就く人間が日の当たる場所を歩いている人間であるはずがありません。りさ子の転落についても詳しく書かれているので、興味を持った方は読んでください。
東京に寄生するようにして生きているりさ子ですが、私はその姿に逞しさを感じました。やはり、泥水をすすってでも生きられる人間が一番強いんじゃないでしょうか。
物語は暗いばかりではなく、少しずつりさ子に生命力が戻っていく様子が描かれているので、再生の物語として読むことも出来ます。私は、とても面白い本だと思いました。