うつ病、無職の雑記帳

孤独です。しあわせになりたい。

潮風エスケープ

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額賀澪、中央公論新社
☆☆☆
深冬の通う高校は東京にある有名大学の付属校です。高校と大学は同じ敷地にあり、高校生は大学のゼミに参加することができます。その制度を利用して、深冬は好きになった大学生の優弥のゼミに出入りしています。

 

深冬の実家は、関東の田舎で大規模農家を営んでいます。両親は将来、深冬に農家を継いでもらいたいと思っています。しかし、深冬は自分の将来を他人に決められてしまうのが面白くなくて、寮が完備されていて、都内にある今の大学付属高校へ進学したいきさつがあります。

 

優弥のゼミは日本の伝統文化を研究するゼミで、今年の夏は優弥の故郷である潮見島の神事を現地調査することになりました。夏休みにずっと実家にいると両親と将来のことで喧嘩になるので、深冬はこの現地調査に参加することで実家から逃避します。すると、離島である潮見島で生まれてから中学生になるまで、一度も島外へ出たことがないという柑奈と出会うのです。しかも、島外へ出ない理由が潮見島の神職になるための伝統を守っているからだ、と言うのです。

 

やりたいことがあるワケじゃないけど他人に自分の将来を決められたくない深冬と、伝統を守ることに誇りを持っている柑奈が出会ってスグに仲良くなれるわけがありません。二人は反発して、互いの価値観をぶつけ合います。

 

私は、【文化】という言葉を耳にすると複雑な気持ちになります。なぜなら、世界には文化を守るために抑圧された生活を余儀なくされている人がたくさんいるからです。文化というものは、合理的でも、生産的でもありません。そのため多くの場合、それに従事する人の犠牲の上に成り立っているからです。

 

しかし、この小説を読んでいくと、伝統文化を嫌って島を出て行った人たちが自由に生きているか?、合理的に生きているか?、というとそうではありません。逃避した先には、その場所でしか通用しない慣習があって、理不尽なことを我慢しなければならないのは島と同じだからです。

 

深冬と柑奈の二人が出す答えは、いったいどんなものになるのでしょう?興味を持たれた方は読んでみてください。