うつ病、無職の雑記帳

孤独です。しあわせになりたい。

たんぽぽ団地

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重松清、新潮社
☆☆☆
たんぽぽ団地は、都心から私鉄の電車で30分の町にあります。スターハウスが8つ、マッチ箱のような四階建てのフラット棟が7つ、合わせて1号棟から15号棟まで。団地の規模としては、それほど大きくはありません。

 

この団地を舞台にして、70年代に小学六年生を主人公にした子供向けテレビドラマが撮影されました。主人公はたんぽぽ団地に住んでいて、スターハウスの一つがタイムパトロール隊の基地およびタイムマシンという設定で、歴史を改ざんしようとたくらむ悪役と戦うお話でした。

 

時は流れて2010年代、70年代に12歳だった少年少女たちは50代になり、たんぽぽ団地は老朽化により解体の決定が住民に通知されました。

 

そんな時期に、テレビドラマに関係した人々とその子供たち、下は小学六年生から上は70代まで、さまざまな世代が集まり、年配者はたんぽぽ団地がにぎやかだった頃を思い出しながら、年少者はにぎやかだった頃を想像しながら、幾人もの登場人物の目線をかりてたんぽぽ団地の今の姿を描きます。

 

この小説の面白いところは、たんぽぽ団地が70年代から2010年代までにたどった歴史を通して、日本の家族だったり、社会の変化を描いているところです。70年代と2010年代では、家族構成、子供の遊び方、働き方、近所付き合いの仕方、などなど激変していることを教えてくれます。

 

また、登場人物たちはすべて庶民で、神様から特別に愛された人は一人も登場しません。そのため、挫折を経験した、あるいは今まさに挫折に直面している人が登場するのですが、そんな普通の人々への暖かいメッセージが込められています。作中にある、

 

「負けることやあきらめることと、終わることは違うからね、絶対に」

 

という台詞はこの小説をつらぬくテーマのように私は感じました。挫折しても人生は続いていくんです。それどころか、挫折してからの人生の方が、夢や希望を抱いて生きていた無邪気な時期よりもウ~~~ンと長いように感じるのは私だけでしょうか?大事なのは、そこからどう立ち直って、身分相応の生活を築いていくかですよね。

 

終盤ではファンタジーの色合いが濃くなり、厳しい現実から登場人物たちと読者を救っています。物語なんだから、こういうラストも私はありだと思いました。