北村薫、文藝春秋
☆☆☆
8つの短い物語が収められたミステリー小説です。1つの物語は40分くらいで読むことができます。作中で凶悪犯罪は一度も起こらないので、怖がりな人にも安心です。
主人公は田川美希、東京にある出版社に勤め始めて6年目です。美希が仕事を通じて、謎に出会います。美希は学生時代にバスケットボールの選手だったくらいバイタリティーのある女性なのですが、謎解きは苦手なようです。
じゃ、誰が名探偵の役を担うのかというと、中野に住んでいる美希のお父さんです。どんなお父さんか美希が読者に説明するくだりをそのまま紹介すると、
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わたしには、父がいるんです。定年間際のお腹の出たおじさんで、家にいるのを見ると、そりゃあもう、パンダみたいにごろごろしている、ただの《オヤジ》なんですけど
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このお父さんは、文学に関する知識がとにかく豊富で、さらに観察眼もするどく、美希から相談されるだけで、現場検証もせずに次々と謎を解いてしまうのです。
少し物足りないと感じたことは、美希と一緒に謎を解くためには読者に文学の素養がなければならないことです。物語の前半に伏線があって、それを見落とさなければ謎が解けるというのではなく、文学の予備知識があってはじめて、
「あぁ、それはね」
となる仕組みだからです。逆に、謎解きの際にお父さんがする文学のウンチクを楽しめる方には推薦できる本です。
謎に深刻なものはなく、謎が解明されなくとも作中のキャラが窮地に立たされるようなお話は一つもありません。1話約40分で読めるし、通勤通学の暇つぶしに読むとイイんじゃないでしょうか。