海音寺潮五郎、新潮文庫
☆☆☆
久しぶりに長編小説を読みました。読み終わるのに3週間かかりました。
平将門は平安時代中期の人です。この時代に興味がなかった私は、ずっと平安時代を避けていたのですが、「フッ」と私が暮らす埼玉県にも近い茨城県の英雄に興味が湧いて読んでみることにしました。
平安時代の政治の中心は京都なので、そちらの文献はたくさんあると思うのですが、この本では主にこの時代の地方の様子を描いています。
面白いと思ったのは、この時代の京都から地方へ派遣されてくる役人は私腹を肥やすことのみに熱心で、任地の社会保障や治安維持はまったく行っていないということです。
奈良時代までは、朝廷の権威が日本の隅々に行き渡っていなかったので要所に軍隊を駐屯させて治安維持活動をしていたらしいのですが、平安時代になると大規模な軍事衝突はなくなったので、維持費がかかる軍隊は解散させてしまったそうです。
ですが、豪族同士の戦争がなくなっても犯罪はなくならないわけで、仕方がないから地方の人たちは自警団を作り、それが武士へと発展したそうです。
さて、主人公の将門ですが、爽やかで素朴な男として描かれています。戦争はめっぽう強いのですが、素朴な人柄が仇になって政治力に欠けるため、戦争の勝利を生かすことが出来ません。
はじめは関東平野に土着した平氏一門の喧嘩だった抗争が、いつしか関東平野全域に及んで、朝廷と対立することになります。
徴税だけ行って、行政活動をしない朝廷の役人なんて地方で暮らす人たちで追放すればイイのにと私なんか思いながら読んでいたのですが、この時代の民衆は朝廷の権威を恐れてできないんです。朝廷には軍隊がないので、自分で将門の武装蜂起を鎮圧できないのにですよ。不思議ですね。
人間の行動を制約する権威というものについて考えさせられた本でした。