畑野智美、文藝春秋
☆☆☆
若い女性が本当に貧乏になるとどうなるか、というテーマについて書かれた小説です。
貧乏を扱っていても、知恵とユーモアで貧乏を楽しみながら管理社会の外側で面白おかしく生きるさまを描く小説もありますが、これは硬派な社会派小説です。
題名にある《神さま》は不幸な人が、幸運がやって来ることを願っているのかな、と思って読み始めたのですが、ここでの《神さま》は買春する男のことです。
訳あって両親と暮らせない、軽い知的障害がある、遊ぶ金が欲しい、男にみつぐ金が欲しい、などなど、様々な理由で女の子たちが売春するのですが、買い手がなかなか現れないときなどに女の子が、
「今日は神さま来ないな」
などと使うのです。
軽い気持ちで売春する女の子たちは必要なお金を手に入れると歓楽街を去っていくのですが、なかには売春しか生計を立てる手段がない女の子も登場します。
本来ならば、そういった女の子は福祉行政によって救われるべきなのですが、そうならない現実を物語を通して社会に告発しています。
《寛容》が失われた現代日本では、こういった問題を話し合おうとするとスグに《自己責任》を持ち出す輩がいますが、主人公と彼女を取り巻く女の子の貧困は個人の努力で解決できるものではありません。
そして、主人公だけが非常にまれな幸運を得て、歓楽街を離れることに成功するのですが、50年生きてきて、人生には運も必要と思うようになった私はそのことを陳腐に思うことはありませんでした。
亡くなられましたが、名優の高倉健さんが
【人生は、誰と出会うかで決まる】
と晩年、周りの人に言っていたそうですが、本当にそうだと思います。
本当の神さまは買春する男なんかじゃなく、困っているときに助力してくれる人のことですよね。