横道世之介

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吉田修一、文春文庫
☆☆☆
1980年代後半、大学進学のために長崎から上京した横道世之介18歳の物語です。

 

個人的なことから、世之介にとても親近感を感じてしまいました。まず、80年代後半に大学生だったということ。つぎに、世之介は法政大学に通うのですが、私はこれと目と鼻の先にあった東京理科大学に通っていたということ。同じ時代、同じ界隈で大学生だったということで作中の風景が脳内で鮮やかな情景を結びました。

 

そして、世之介が一人暮らしをするために借りたアパートは東京都小平市花小金井駅周辺なのですが、この界隈に私もサラリーマン時代に約10年間住んでいたので、これまた作中で登場する地名に懐かしさがこみ上げてきたからです。

 

物語からはバブル景気に沸く、当時の浮かれた雰囲気がプンプンします。登場人物の誰もが、この好景気がずっと続くと信じていて、将来のことなど真剣に考えなくとも生活に困ることなどないと楽観的に生きているのが伝わってきます。私は、この好景気が日本に訪れた最後の好景気だと知っているので、少しだけむなしさを感じてしまいました。

 

世之介は押しの弱い男で、具体的な夢があって法政大学に入学したわけでなく、勉強は卒業できればいいや程度にしかやらないし、部活やアルバイト、さらには恋愛までもその場にいた人の誘いに乗って流されていくだけで、主体的に動いて経験するということを作中では一度もしていません。

 

そんな世之介なんですが、愛嬌があって善人なので、彼の周りにはいつも誰かが近寄ってくるんです。言っときますけど、世之介はお金は持ってませんからね。そして、それらの人に振り回されているのです。そんな、愛すべきキャラの世之介を恋人だった女性が数十年後の世界で回想するシーンがあって、世之介の人柄を端的に表現しているので紹介します。

 

・・・・・
「世之介はどんな人だったの?」
「どんな人・・・、どう説明すればいいのか、分からないのよね」
「祥子が好きになるくらいだから、立派な人だったんでしょうね」
「立派?ぜーんぜん。笑っちゃうくらいその反対の人」
「そうなの?」
「ただね、ほんとになんて言えばいいのかなぁ・・・。いろんなことに、『YES』って言っているような人だった・・・、もちろん、そのせいでいっぱい失敗するんだけど、それでも『NO』じゃなくて、『YES』って言っているような人・・・」
・・・・・

 

1989年を最後に日本は経済がずっと右肩下がりで、若者は好景気というものを知らないし、インターネットがない時代の青春というのにも共感しずらいと思うので、お勧めできるのは私のように50歳前後の人たちかなと思いました。