塩野七生、新潮文庫
☆☆☆
エルサレムを陥落させることになる第一次十字軍の概要は知っていたのですが、どんな人たちが参加していたのかは知りませんでした。そこで、この本を読んでみることにしました。
まず、個人でも大きな決断をするときというのは、何か一つの事柄によってなされるのではなく、いくつかの複合的な原因があり、しかたなく、あるいは、積極的に打破するためになされるものと私は思っています。
参加する人数が膨大な数になる十字軍ともなるとなおさらで、この本を読むと様々な人が色んな事情を抱えてヨーロッパからエルサレムを目指して行軍したことがわかります。
また、十字軍はヨーロッパからエルサレムまで行軍することになるので、1096年から1118年までのこの一帯の社会風俗を十字軍に参加した兵士のように見聞することができるのもこの本の魅力です。
それにしても、塩野さんの文章は毎度見事ですね。十字軍の戦略を決めることになる男は6人いるのですが、本を読んでいると私が7番目の有力者となり、作戦会議に参加しているような臨場感を味わうことができました。
6人の描き分けが見事で、塩野さんがタイムマシンで現場に行って見てきたかのように筆記されているからです。
決して一枚岩ではなかった十字軍がなぜ目的を達することができたのかを私なりに総括すると、
①十字軍にはもめ事があってもエルサレム解放という究極の目標があった。
②イスラム教徒の指導者たちの場当たり的で利己的な行動。
の二つになると思います。
私もサラリーマンを20年やって、大人数を一つの目標に邁進させることの難しさを経験しているので、上記二つの原因はなるほどもっともだと腑に落ちました。
お金と時間の余裕があったら、エルサレムに行って事件の現場を見てみたくなりました。