山崎ナオコーラ、河出書房新社
☆☆☆
野原小太郎は小さなころから、
【働かざる者食うべからず】
と教育されて大きくなりました。そのため、お金にならないことをする人を理解できません。勉強が得意でなく、経済的に早く自立したかったので高卒で銀行に就職します。
方や、岩倉鞠子は放任主義の家庭で育ち、お金になるかどうかなんて気にせず、好きなことに熱中して大きくなりました。そのため、平安文学なんていうまったくお金にならない学問を大学院までおさめました。しかし、好きなことだけして生涯を終えられるほどには実家が裕福でなかったため、本屋さんでアルバイトをしています。平安文学を大学院で勉強しても就職で有利になることはなかったからです。
こんな二人が結婚適齢期になり、お見合いを通じて知り合い、結婚します。
「この二人で上手くいくの?」
と思われませんか?
私も上手く行かないんじゃないかなぁ、と思いながら読み進めて行ったんですが、意外や意外、お似合いの夫婦になるんです。
その理由ですが、
①小太郎はお金にならないことをする人を理解できないけれど、憎んではいない。
②小太郎は他人の意見に耳を傾けることができる素直な人間だった。
③鞠子は怠け者ではなく、家事をきちんとしたうえで趣味に打ち込んだ。
④鞠子は経済観念がしっかりとしていて、身の丈に合った生活を守った。
⑤二人は愛し合っていた。
以上の5点でしょうか。
「趣味なんて、お金にならない」
と興味をしめさなかった小太郎が鞠子に影響されて少しずつ趣味を広げていく楽しいお話になっています。とくに、鞠子の趣味に対する考えは勉強になるので、趣味に行き詰っている人は一読の価値ありです。
鞠子は、
「趣味は上手くならなくてよい」
と断言して、下手でも楽しく打ち込むのですが、凡人にはこれがなかなかできないんですよね。どおしても人と比べてしまうからです。プロはクオリティを求められるので下手じゃダメですが、趣味は下手で良いんです。それでこそ趣味人を極めたと言えるんですが、私はその境地に達していません。
私はバイオリン教室に10年以上通い、今も合奏教室で弾いているんですが、思い通りにならないことで落ち込んだり、イライラしたりしちゃうんです。この本を読んで、趣味とは何かを改めて考えるきっかけになりました。