三上延、新潮社
☆☆☆
関東大震災(1923年)の復興で建てられた鉄筋コンクリートのアパートで暮らし始めた新婚夫婦を時代の変化とともに1997年まで記録した物語です。なので、若夫婦、子、孫、ひ孫と物語の目線が変わっていきます。
とても仲の良い家族で、助け合いながら暮らしています。主要登場人物に悪人は出てこないので、心温まる家族の物語として読むことができます。
これだけ長い期間をあつかっているので不運にも見舞われるのですが、この家族の対処法は嵐が過ぎ去るのをじっと待つといった感じです。物語なので逆転満塁ホームランを希望する読者もいるかと思うのですが、私はこちらの方が現実に即している気がするので、好感を持って読みました。
本の表紙にアニメ調の女の子が描かれていますが文章は落ち着いていて、けっしてライトノベルじゃありません。そちらを期待される方は他を当たるほうが良さそうです。
ひ孫がいじめを理由に引っ越しするのですが、私はこれに大賛成です。正論を言う人は戦って勝つことばかり勧めますが、実際の世の中で物事がスッキリ解決することなんて極めてまれです。理不尽なことからは、
【逃げるが勝ち】
ということも大人が子供に教えなくてはならない処世術の一つだと思います。