うつ病、無職の雑記帳

孤独です。しあわせになりたい。

ニムロッド

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上田岳弘、講談社
☆☆☆
ちょっと掴みどころのない、哲学的な話に思いました。それというのも主人公が社長命令でビットコインの採掘を行っていて、

 

「価値ってなに?」

 

みたいなことをボンヤリと考えているからかもしれません。

 

登場人物は3人です。

 

中元サトシ、38歳、独身。主人公です。業務用のサーバーを管理する仕事をしながら、余っているサーバーでビットコインを採掘している。

 

荷室仁、39歳、独身。通称ニムロッド、サトシの会社の先輩。うつ病になって東京本社を離れ、地方支社でのんびり働いている。

 

田久保紀子、37歳、独身。通称タクボン。サトシのセフレ。外資系金融機関でバリバリ働いているが、精神に不安定なところがあり、煮詰まるとシティーホテルにサトシを呼び出してセックスしている。

 

サトシとニムロッドは仮想空間が仕事場だし、タクボンは相場を相手に利ザヤを稼ぐ仕事をしていて、三人とも地に足着いた仕事じゃないので、どこか浮世離れしています。

 

そして、サトシとタクボンは価値が不安定なものを相手にして生計を立てているので、否が応でも、

 

「価値ってなに?」

 

となってしまうわけです。

 

とらえどころのないお話なので、こんな紹介しかできないのですが、上手いこと言うなぁ、と感心した箇所を引用しておきます。タクボンがセックスのあとでサトシとの雑談で言った言葉です。

 

『世界は、どんどんシステマティックになっていくようね。システムを回すための決まりごと(コード)があって、それに適合した生き方をする、というかせざるを得ない。どんな人でも、そのコードを犯さない限りは、多様性(ダイバーシティ)は大事だからと優しく認めてもらえる。それで、コードを犯せば、足切りにあって締め出される。収入が足りないとか、TOEICの点数が足りないとか。例えばシンガポールではね、月収や学歴が基準を満たしていないと、就労ビザが下りない。能力が足りない人をそもそも締め出している。国家ぐるみで。たかだか人口6百万人に満たない都市国家の話だからいいかもしれないけど、世界全体がそんな風に締め出しを始めたら、行く場所がなくなる人が続出するかもしれない』

 

私もボンヤリとそんなことを考えていたので、タクボンが代弁してくれてうれしかったです。