三浦しをん、中央公論新社
☆☆☆
深い青色の綺麗な装丁の本です。
東京大学理学部で植物の研究をされている方々をモデルに作られたお話です。
この本を理解するうえで、
《理学部ってどんなとこ?》
というのが重要になります。30年前に三流大学の理学部を卒業した私が説明申し上げますと、
《なぜ?》
って疑問に思うことならなんでも研究できます。作中の主人公である本村紗英(博士課程1年)はシロイヌナズナという珍しくもない植物の葉っぱの大きさを見て、
「なんで、葉っぱの大きさが揃っているんだろう?小さい葉っぱや大きな葉っぱがあってもイイのに。葉っぱの大きさを決めている何かが存在するんだ」
と思うようになり、《葉っぱの大きさを決める何か》を明らかにするために東京大学で研究しています。
これが、同じ植物を研究するのでも農学部だと、
《人の役に立つ》
というのが、最重要の目的になります。つまり、人の役に立たないことは研究できないってことです。
人の役に立つってことは、研究の成果によってはお金が儲かるってことで、そうなると当然、理学部よりも生臭い匂いがしてくるものなのです。お金が絡むと人って変わりますからね。
そんなわけで、紗英の研究室は教授から院生に至るまで浮世離れしたメンバーしかいません。みな優しく、思いやりのある人々で、作中では【怒り】の感情を表現するシーンは一か所もありません。
私も中学生のころまでは、天文学者みたいに、
《宇宙の果てはどうなっているんだろう?》
なんてことを考えながら大学でお給料をもらえたら素敵だなぁ、なんて夢見てたんですが、大学受験が近づくころには、そういう職業につくには偏差値が70以上必要なんだ、と分かるようになり諦めました。難しいことは頭が良い人に考えさせたほうが社会的効率が良いに決まってますからね。
時間に追われ、成果を求められ、人間関係に疲れ、ストレスを溜め込んだ人にお勧めの本です。
この物語の中では、短期的な成果に縛られず、失敗も許され、自分が好きなことを『私も大好き!』と言ってくれる人だけが同僚です。そんな天国のような職場で自分が働くことを仮想体験して心を癒してください。
これを読めば、生まれ変われたら植物学者になりたいと思う人もたくさんいるはずです。