うつ病、無職の雑記帳

孤独です。しあわせになりたい。

隠居すごろく

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西條奈加角川書店
☆☆☆
徳川吉宗のころより数十年あとの江戸の巣鴨が舞台です。

 

大きな商家の主人である徳兵衛がお店の経営を息子に譲り、隠居します。

 

江戸時代の巣鴨はまだ畑が広がる田舎で、メインストリートの中山道を離れると農家が点在する場所でした。徳兵衛は空き家になっていた農家を買い取り、リホームして気ままな隠居暮らしを始めました。

 

歴史ある商家の6代目だったころの徳兵衛は、店を預かる重責から小さなことでも家族や雇人たちを厳しく叱る怖い主人でした。しかし、繁華街から遠ざかり、大きな家で身の回りの世話を焼いてくれるお手伝いさんと暮らし始めると、静寂ばかりが続く何とも寂しい毎日です。

 

暇をつぶすのに苦労していたところ、孫の千代太が野良犬を拾って訪ねて来ます。徳兵衛は、

 

「世間には困っている人がたくさんいるんだから、優しくするなら野良犬ではなく、人に優しくしてあげなさい」

 

と教えてやると千代太はさっそく乞食のようななりをした子供2人を連れて来ます。

 

これまでお金儲けのことばかり考えて人付き合いが下手だった徳兵衛が、まだ世間の複雑さを知らずに困っている人を見るとほっとけない千代太が連れて来る人々と関係を持つことになります。

 

大きなお店を長年経営してきた徳兵衛は頭がよくて肝も据わっているので、とても頼りになります。本の終盤では、ガランとしていた大きな家が同居する人や訪ねて来る人たちでいっぱいになります。その分、トラブルも多くなるのですが、それを解決する様がこの本を面白くしています。

 

リタイアした後も、孫から学んで人間的に成長してゆく徳兵衛は理想的なお爺ちゃんです。