うつ病、無職の雑記帳

孤独です。しあわせになりたい。

困ってるひと

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大野更紗ポプラ社

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文明から隔絶されたビルマの難民キャンプへ長期間出かけるほど元気だった大学院生が突然に免疫の病気を発症し、自ら医療難民になってしまう闘病記です。

 

本来、免疫というものは外敵を攻撃し、体を健康に保ってくれるシステムですが、何かの不具合が生じて自らを攻撃することがあります。一番有名なのがリウマチですが、彼女が発症したそれは大学病院の医師でも病名を付けることが困難なとてもとても稀な症状だったのです。

 

病名を付けることが困難ということは、治療法もないということでいくつもの大学病院をたらい回しにされます。死にそうに辛い体を引きずりながら、病院をさまよう医療難民生活スタートです。

 

ようやく親身になって診てくれる医師に出会えてホッとしたのもつかの間、お次は検査地獄です。病気によって体の組織がボロボロになっているので幹部を切り取って検査する必要があるのですが、麻酔をして切り取ると正しく検査できないため、麻酔なしで体を切り取られます。これは地獄です。

 

検査が終わり、治療が始まっても副作用の強い薬を飲んで、大げさでもなんでもなく死にかけます。この辺りで彼女は毎日、自殺の方法を考えるようになります。

 

ところが、彼女を苦しめる敵は病気だけではないのです。高額な治療費をいかに捻出するか、そのためには福祉に頼らざるを得ないのですが、これが複雑怪奇で上智大学の大学院生である優秀な頭脳をもってしても理解できません。しかも、歩行困難な体にも関わらず、市役所の役人はお百度を踏むことと膨大な書類の提出を求めてきます。

 

亡くなった私の母も難病を患っていたので、福祉に頼っていたから分かるのですが、難病患者を助ける制度は、患者本人では申請手続きをクリアすることが出来ないように制度設計されているんです!この辺りのことを彼女は《ミッションインポッシブル》なんてユーモアをまじえて紹介してますが、私は福祉行政の欠陥だと思っています。

 

難病患者だけが集められた大学病院の様子、医師と患者の人間模様、福祉行政の欠陥、患者同士の連帯、そして、そんな境遇でいかにサバイバルするかがユーモアを交えて描かれています。本当は凄く辛い話なのに、うつ病の私でも最後まで読めたのは大野更紗さんの文才によるものです。誰もが最後は病気になって死ぬわけですから、読んで損にはならない本だと思います。