薄井ゆうじ、講談社文庫
☆☆☆
私はうつ病なんですが、この本はうつ病の人は読まない方がイイと思いました。バットエンディングなんです。それも、何の希望もない終わり方です。読み終わって、ドヨ~ン、とした気持ちになりました。
まず、恵子という女がセックスをしないで男の子を誰にも知られずに産みます。恵子は大金持ちで、一生遊んで暮らせる身分だったので、男の子を行政機関に登録することなく、自分一人で育て、教育します。男の子は保育園には通ったのですが、それを卒業してからは母親の恵子と二人だけで生活し、18歳になりました。
恵子と男の子は山奥の別荘地で暮らしています。めったに人と接することはなかったのですが、別荘地に新太郎(28)が休暇を利用してやってきて、普通ではない母と子に接触し、物語の本編が始まります。
異常な母親の強い影響を受けて育った男の子は社会に適応することがまったくできず、そのことに悩むよりも社会を積極的に拒絶します。
「社会に適応するってことは、社会に消化されてしまうってことだ」
そう言って、自分らしく生きるために一人で森の奥へ行ってしまい、野生動物のように暮らし始めます。そして、最後は衰弱死して物語が終わるのです。
文庫本で361ページあるので、紆余曲折があるのですが、未来に希望を感じさせる場面が一つもないんです。この本のメッセージは、
【人と交流すると自分らしさを失う】
でしょうか。
元気な方でも読み終わる頃には鬱っぽくなるはずです。誰に向かって書かれた物語なのか私には分かりません。