しねるくすり

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平沼正樹、産業編集センター

☆☆☆

題名のとおり、たった一粒飲めば安らかな死を得ることが出来る錠剤をめぐる物語です。

 

ミステリーの要素が強い物語なので、あらすじを書いてしまうとこの後読む人たちに恨まれそうなので、分からないように努力して紹介します。

 

物語では以下の2つが謎になっています。
①誰が薬を作ったか?
②死を望む人に薬を配ったのは誰か?

 

謎解きとならんで、重要なテーマが《安楽死》についてどう考えるか、です。これはそうとう難しい問題です。世界中の人を巻き込んで、何日も話し合ってさえ、全員が納得する答えはでないでしょう。ですが、薬を開発するくらいだから、薬の開発者は死によってしか現在の苦しみを解決する方法がない人もいると信じています。

 

薬を配る人物は自殺願望者を面接し、薬を必要としていることを確認してから薬を渡しています。その中の一人、女性を面接したときに、配る人物が女性に対してもった感想を下記に転載します。

 

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彼女の言うように、死は幸せになるための選択肢だと考えている人もこの世界には確実に存在する。しかし、彼らはそれを声に出せない。なぜならこの社会で死にたいなどと発言すれば、それは心の病であると認定され、治療が必要な患者として扱われることになるからだ。そして患者は社会に適応した状態、つまり生きることに前向きな健全な精神状態へと思考の再構築を迫られる。生きることが前提のこの社会では、彼女のような人たちの気持ちを理解できる人間などどこにもいないのだ。
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薬を配る人物の考えは以上のようなもので、

 

「死にたい人の気持ちを理解できる人はいない。だから、私が安楽死できる薬を届ける。」

 

ということのようです。

 

しかし、薬を配るうちに薬にはもう一つの効果があることが分ってきます。いつでも好きな時に安らかに死ぬことが出来るとなったとたん、

 

「いつでも死ねるし、もう一日頑張ってみるか」

 

と考える者がでてくるのです。この辺り、読んでいて私も腹落ちするものがありました。

 

人は自分がいくつまで生きて、どんなふうに死ぬのか分からないから貯金したり、保険に入ったり、その他めんどうな事に時間とお金を費やしているように思います。それが、死にたくなったらいつでも好きな時に手軽に安楽死できるとなったらどうでしょう?あなたは、堅実に生きようなんて思いますか?私なら、

 

「いつでも安楽死できるし、今をおもしろおかしく生きてみよう!」

 

となります。

 

死を考えることは、生を考えることでもあります。私は、何が何でも長生きするのが正しいとは思ってなくて、この物語に出て来るような安楽死できる薬が、いつでも、誰でも簡単に手に入る社会になったら良いと思います。