うつ病、無職の雑記帳

孤独です。しあわせになりたい。

そして、バトンは渡された

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瀬尾まいこ文藝春秋

☆☆☆

高校生になるまでに、母親が2回、父親が3回変わった女子高生の優子のお話です。

 

実の母親は物心つく前に亡くなったので記憶にありません。

 

それ以後にやって来た母親1人と父親2人は物心ついてから一緒に生活したので、どうしてそうなったのか、その人はどんな人だったのかが優子の目線で描かれています。

 

ただし、優子のもとにやって来た大人たちは個性こそ違えども優子に愛情を注いでくれる大人ばかりだったので、優子はそんな自分を不幸だと思うことなく生きてこられました。この辺の性格や経済力の違う大人たちが、それぞれの方法で優子を愛する姿を見てゆくのがこの本の楽しみの一つです。

 

優子の生活を見ていると、子供は経済的に自立するまでは親の影響をモロに受けることが良く分かります。優子は、あるときには給料日前になると貯金が数百円になってしまう家で暮らしていたり、またあるときは家政婦が家事をすべてやってくれる家で暮らしたりします。

 

優子がラッキーだったと思うのは、どの親も自分の血を引いた子供がいなかったということ。実の子供と他人の子供を一緒に育てた場合、差別があって当たり前です。物語を通じて、このことを一度も想像すらしないで済んだ優子は絶対にラッキーです。

 

それでも、親が変わるたびに生活も大きく変わる中で、

 

「経済力がない自分はここで暮らしていくしかない。自分からここの生活に適応しなくては」

 

と自分に言い聞かせて生きてきた優子には同級生たちが持たない強さが身についています。

 

親と厳しい対立関係になることが本の中で一度もないため、その分の紙面を優子の学校での生活に割いています。だから、学園青春小説としての顔を持っているのもこの本の面白い所です。

 

小説は他人の人生を疑似体験するために読むものです。こんな波乱万丈な人生をあなたも疑似体験してみませんか?私は面白い本だと思いました。