うつ病、無職の雑記帳

孤独です。しあわせになりたい。

雨の背中

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中場利一、光文社

☆☆☆

20代の鏡子と40代の竜二の恋愛小説です。ただし、竜二は新宿で名の通ったヤクザです。

 

親から虐待されて育った鏡子は高校を卒業するとスグに家を出て東京で一人暮らしを始めます。

 

竜二も親から愛された記憶がなく10代で家出をして上京、そしてヤクザになりました。

 

人から愛されたことがない二人が偶然出会って、はげしくお互いを求めるようになります。

 

しかし、竜二はヤクザです。ヤクザは平和に暮らしたいと願っても相手が前に出てきた場合に引くことができません。竜二の世界ではなめられたら全て終わりなのです。

 

そのため、物語の中では暴力の応酬が繰り返されます。二人の運命はいかに、という物語です。

 

ここからは、私の感想です。

 

竜二が一度、鏡子のために堅気になろうとするのですが、10代で家を飛び出してから40代になるまでヤクザをやってきた竜二には無理でした。20年以上続けた生活習慣をガラリと変えるってことは生半可なことではできません。私は現在、53歳で無職です。いつもお金の心配をしています。でも、20年役人として働いた自分が他に何をできるか、と自問しても何の答えもありません。いくつもの職業を器用に渡り歩く人もいますが、それができない竜二に私は共感しました。

 

生まれてから誰とも心を通わすことができなかった鏡子は、何日も帰ってこないことが珍しくない竜二を小さなアパートでいつも待っているんです。たしかに、鏡子には竜二しかいないんですが、こんな生活に耐えられるものでしょうか。鏡子がかわいそうだな、と思いながら私は読んでました。

 

本の題名になっている《雨の背中》ですが、鏡子が孤独に耐えられず飛び降り自殺するため高いところに登ったときに雨が降っていて、落ちていく雨を見下ろしているときに雨の後姿を見ているような気持になって、「雨の背中だ」と思う場面からきています。

 

寂しい気持ちと引き換えの激しい愛情を描いた物語です。