二宮敦人、新潮文庫
☆☆☆
作者が現役の芸大生と結婚されたことから東京芸術大学に興味を持ち、取材の末に世に送り出された本がこれです。
東京芸術大学には美術を専攻する《美校》と音楽を専攻する《音校》に分かれるのですが、どちらも網羅していて読みごたえがあります。
東京芸術大学を目指している学生さんは読むことをお勧めしますが、私のように52歳になっていて一生、東京芸術大学と縁がないに決まっている人が読んでも面白い本です。文庫本の裏にある紹介文に【抱腹絶倒】とあるのは誇大広告ではありません。
東京芸術大学は芸術を志す若人が目指す日本最高峰の学校ですが、そこは変人たちの巣窟です。なぜなら、芸術家は顔と名前を覚えてもらって次に指名してもらえるようにならなければ食べていけないからです。その人の人物評が、
「これといって特徴のない人でした」
なんてことじゃ芸術家失格です。
だから、先生、学生ともに一般的な社会人の考えは通用しません。それが一番分かりやすいのが、【労働】に対する彼らの考え方です。芸大生はまったく就職について考えていないのです!
普通の大学生は、卒業後にどうやってお金を稼ごうか考えるものですが、芸大生は、
「卒業後も今の生活を続けているだろう。運良く売れて生計が成り立てば良いけど、嫌なことをしてまで稼ごうなんて思わない」
という人ばかりです。事実、卒業後の調査では就職が1割、進学が4割、残りの人たちは進路未定と公式に発表されてます。【進路未定】とはつまり卒業して無職になったということです。
とにかく、あらゆる意味で浮世離れした人たちが次から次へと紹介されるので、芸術家の卵たちに興味がある人はぜひとも読んでみてください。