うつ病、無職の雑記帳

孤独です。しあわせになりたい。

ファイアーキング・カフェ

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いしかわじゅん、光文社

☆☆☆

沖縄県那覇市を舞台にした短編小説集です。

 

6つの物語に6人の主人公が登場します。

 

前にも沖縄県那覇市を舞台にした小説を読んだのですが、雰囲気がそっくりで、那覇には行ったことがないのに、「こんな所なのかなぁ」、と思いが強くなりました。

 

マスコミが流す沖縄県のイメージは、青い空、青い海、明るい太陽、陽気な地元の人々などですが、実際はそうでもないみたいです。

 

よくよく考えれば、観光しか産業がない沖縄に天国みたいな場所を期待する方が間違いなのでしょう。

 

この本の主人公になる6人は、内地の生活に飽きて那覇へ来た者、内地で会社を倒産させて那覇へ逃げてきた者など、ワケありな人ばかりです。そして、物語の中では那覇の繁華街で働く人の半分は内地からの流れ者とされています。

 

でも、気持ちが暗くなるようなお話かというとそうでもありません。貯金はないし、明日のことも分からないけれど、とりあえず今日食べるために働いて、仕事が終われば仲間とお酒を飲んだり、恋人や娼婦を相手にセックスしたり、と生きることを楽しんでいるんです。そんな生活を続けて老人になった人が何人も登場するので、こんな人生もありなのかと思ってしまいます。

 

そんな那覇を描写した箇所を以下に転載します。

 

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那覇は、居心地がよかった。
将来への希望や展望が、この街ではあやふやだった。
誰もがその日を生きることしか考えていない。この街では、目の前にある時間をどう楽しむかが、人生において最も重要なことなのだ。観光客は溢れているが、住民は決して豊かではない。産業がないから、ろくに仕事もない。米軍基地に土地を提供している地主は毎年莫大な地代を受け取って一族郎党贅沢な暮らしをしているが、一般庶民は貧しい。なにも掌の中にないから束縛するものもない。明日の希望が見えないから、今日を楽しく生きている。それがこの街の人たちにとっていいことなのか悪いことなのかわからないが、確かなもののない、流れている街で、俺は初めて安らいだ。
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私も30歳のころ仕事に飽きて、ここではないどこかに自分の本当の居場所があるんじゃないかと考えていたことがありました。でも、どこへ逃げても、逃げた先には現実が待っていて、また同じようなことを考え始めるだろうと思って、仕事を辞めることはありませんでした。この本の中にはそんな私とは違う選択をした6人がいます。今いる場所に不満がある方たちは、自分を知る人が誰もいない土地へ行って、人生をリセットした人たちの生活を覗いてください。