熊谷達也、光文社
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まだ東北新幹線がなくて、特急に乗っても仙台から東京まで4時間かかった時代の話です。
宮城県の田舎に住む男子高校生が大学受験に失敗しました。18歳で社会に出る覚悟はなかったので浪人生活が始まります。
実家があまりに田舎で予備校に通うのに不便だったため、仙台市内の安いアパートを借りて一人暮らしを始めます。
独り暮らしの解放感に浮かれているうちに「あっ」と言う間に夏になってしまい、受験勉強は少しもはかどりません。
そうこうしているうちに、仙台市内で高校時代に付き合っていた元カノとバッタリ再会してしまい恋愛感情がよみがえります。二人は良い仲になり、青春を謳歌している間に冬になって、そのまま受験シーズンへ突入。一年目の浪人生活は惨敗となります。
19歳で社会に出る覚悟はなかったので、親に頼み込み2年目の浪人生活がスタートします。さて、一年目の教訓は生かされるのでしょうか?
浪人生活というのは、「一年間好きにしてイイよ」、と言ってもらえたことになるわけですから、好きなだけ勉強できるとも言えるし、逆に好きなだけ怠けることもできるわけです。本人の自由意思で好きなように時間を使えるという意味でまさに題名のとおり《モラトリアムな季節》です。
主人公が、
《自分はなんにでもなれる》←→《自分はなんの取柄もない》
という具合に、その日の気分で気持ちが揺れるのですが、私は高校受験のときに、
「自分の社会での位置はこんなものか」
と身の程を知り、この小説の主人公のような感情からは卒業していたのですが、みなさんはどうなんでしょう?
みなさんはいつ頃、夢を見るのを止めました?