pha、幻冬舎
☆☆☆
京都大学を卒業したのにニートになったことで有名になったphaさんのエッセイです。しかし、現在は文筆業で生計を立てているので、この本を執筆した当時はニートではありません。
働いていないと社会的つながりが断たれてしまい孤立することを問題視して、phaさんは、
「孤立しないように家を出よう!」
と提案しています。この本では、具体的にどこへ出かければ良いのかが書かれているのですが、近所の喫茶店から東南アジアや小笠原諸島までと難易度は様々です。
生き方に迷ったときに読むいわゆる自己啓発本というやつは前向きになりたい人が読む本ばかりなので、この本のように社会不適応者がありのままの姿で生きていく方法を模索する本というのはとても希少で価値があります。
ただ、この本は【出かける】ことにフォーカスして書かれた本なので、それを実現するための【お金】については触れられていません。
【働かない】と【出かける】を同時に推奨していることに矛盾を感じたりもしましたが、そこは個々人で何とかしてください、ということなんでしょう。
同じことを経験しても感じ方は人によって様々なのですが、phaさんの感じ方が面白いので、その部分はとても楽しく読めました。
phaさんは観光地のような場所へ行ってもガイドブックに載っているようなことよりもそこで暮らす人の生活に強く関心を寄せています。そして、
「なんだ、暮らしの基本は東京と変わらないな」
と結論付け、以下のような感想を述べます。本文そのままを転載します。
・・・・・・・・・・
日常というのは平凡で退屈で閉塞感だらけのつまらないものだけど、つまらないのは自分だけじゃない。みんな自分と同じように、このシケた現実の中のシケた現実の街で暮らしている。それしかないのだ。よかった。自分だけじゃないんだ。
・・・・・・・・・・
人は自分に起こった出来事に意味を持たせたがるけれども、成功も失敗もすべて偶然、アクシデントであり、意味なんかない。わけもわからずこの世に生を受けて、時間が過ぎたらお迎えがやって来てあの世へ帰っていく、ただそれだけのこと。
「人生なんて死ぬまでのヒマつぶしだよ」
と言い切ってくれるphaさんに清々しさを感じます。