伊吹有喜、ポプラ文庫
☆☆☆
39歳で人生どん底の男女を主人公にした小説です。
哲司は有名大学を卒業して大手銀行に就職したけれど銀行はその後、他の銀行と合併し、行内の権力闘争に敗れて、いつの間にか出世コースから外れてました。そんなとき家庭が安らぎの場であれば哲司は救われたのでしょうが、外資系証券会社でバリバリ働く妻が浮気していたことが分かり、職場にも家庭にも居場所がありません。哲司は会社へ行けなくなり、心療内科を受診すると二か月間休職するように言われます。
喜美子は事故で一人息子を亡くし、失踪した夫も失踪先で孤独死し、天涯孤独になりました。しばらくの間、茫然自失として生きていましたが、見かけ上は活力を取り戻し、秋から春まであてもなく出稼ぎに行き、夏の間だけ、紀伊半島にある海辺の街で知り合いの食堂を手伝って生きています。
以上のような二人が夏に紀伊半島の海辺の街で偶然出会って人生を上向かせるお話です。
私がうつ病で公務員を辞めたのが42歳のときだったので、感情移入して読むことが出来ました。この本は39歳の恋愛小説なので、推奨年齢は主人公たちと同じかそれより上の年齢になると思います。20代の人が読んでもピンとこないでしょう。
私は現在55歳ですが、多くの人は40歳前後で体が急激に変化するように思います。世間一般にはその現象を《厄年》とか《更年期》と呼ぶようです。
運良くその時期を乗り越えられる人もいますが、この時期にツキがないと、私やこの小説の主人公たちのように人生のどん底を経験することになります。
私はうつ病で退職してから13年経ちましたが、主人公のような出会いはありません。運は人が運んでくるものなので、ピンチのときにスグに出会いがあった二人をうらやましく思います。
アラフォー世代で人生どん底な人に特にお勧めな本です。こんな風に出会ってお互いに癒すことが出来たらとても素敵なことです。