夜景 1974

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竹内日出男、角川学芸出版
☆☆☆
物語の中に夜のシーンが多く描かれていますが、《夜景》が物語の重要なキーワードになっているわけではありません。

 

1974年のテレビ局を舞台に描かれた物語なのですが、時代の空気感というものはあまり感じられません。

 

物語は主人公《ぼく》の目線で進んでいきます。《ぼく》は出世競争に敗れたテレビ局員で、小劇団に所属する無名の女優、真樹と同棲しています。

 

物語は真樹が《ぼく》に無断で子供を堕ろしてきたところから始まります。《ぼく》も真樹も明るい未来の展望がなく、子供を産んでも育てられる環境にないことが文章のあちこちにちりばめられています。

 

そんな二人の関係が危機的な状態のとき、《ぼく》はテレビ局の中で暮らすホームレスの春吉ととみ子に出逢います。厳重な警備のテレビ局内で二人は協力者を得て生活しており、あまつさえ、とみ子は妊娠までしてしまうのです。

 

出世コースに返り咲きたい《ぼく》と、とみ子のお腹に宿った新しい命に過剰な関心を寄せる真樹、そしてホームレスの夫婦を軸に物語が進んでいきます。

 

物語の中では登場人物たちに都合の良い奇跡は一つも起こらず、処世術に疎い人たちの日常が淡々と描かれているのですが、誰も世間を呪ったり、他人を貶めることを考えたりせず、運命を受け入れて生きているのが良かったと思いました。

 

普通の人たちの、どこにでもある、ありふれた人生を描いた物語です。